「新しいAI、うちも入れるか」を3分で決める3つのチェック
本記事は2026年9月時点の情報です
朝、新しいAIの発表がタイムラインに流れてくる。数字が並んでいる。
『うちも入れたほうがいいのか』。
そう思って、後で読もうとタブを開いたままにする。結局その日は、判断がつかないまま終わる。
翌週、また別の会社から新しいのが出る。タブがもう1つ増える。
この状態、しんどくないですか。
正直に言うと、私も同じでした。ニュースを開くたびに「これは押さえておかないと」と思って、記事を10本読んで、結局その日は何も進んでいない。
昨日も、まさにそれが起きました。
2026年9月3日、OpenAIが新しいモデルを発表したんです。数字がすごかった。あるテストで99.9%。別のテストで100%。記事の見出しには「AGI(人間並みの汎用的な知能)の時代へようこそ」という言葉まで並んでいました。
見た瞬間、『うわ、これは変えたほうがいいのか』と思いました。
で、発表ページの隅と、テストを作っている側の検証ページを開いてみたんです。
同じテストの点数が、62.7% と書いてありました。
「もう少し様子を見よう」の3日間に、失っているもの
数字の話をする前に、この状況で本当に減っているものの話をさせてください。
新しいAIが出るたびに検討していると、だいたいこうなります。
記事を読む。比較サイトを見る。無料で試す。社内に共有する。結論は「もう少し様子を見よう」。
かかった時間は、合計で数時間から数日。
でもこの間、今ある業務は1ミリも良くなっていません。毎月10時間かかっている転記も、毎週やっている集計も、そのまま残っています。
しかも、乗り換えた場合の話をすると、もう少し具体的に痛いです。
今回発表されたモデル、料金は前の世代の2.5倍でした。前の世代が、外部から使うときの料金で入力4ドル・出力20ドル。新しいほうが入力10ドル・出力50ドル。いずれも「100万トークンあたり」の値段です(トークンはAIが文章を数える単位で、日本語ならざっくり文字数に近い感覚です)。
同じ仕事をさせて、請求が2.5倍。
体力のある会社なら、試して外してもダメージは小さいです。1ヶ月使って「違ったね」で戻せる。
中小企業だと、その1回が重い。だからこそ、飛びつかない判断が要る。
そして「様子を見よう」は、判断ではなく先送りです。来月また同じところに戻ってきます。
必要なのは、その場で答えを出すための、確かめる順番です。
私が今回のリサーチで実際に使った3つを、そのまま渡します。
チェック1:「同じ条件で測った数字ですか」
さっきの99.9%の話に戻ります。
これは「ARC-AGI-3」という、AIの応用力を測るテストの点数です。ちなみに前の世代のモデルは、同じテストで7.8%でした。
7.8%が99.9%。飛躍がすごい。
ここで、テストを作って運営している団体(ARC Prize)が、自分たちで検証した結果を公開していました。それがこうです。
- 標準の測り方: 62.7%
- 発表した会社が用意した専用の測り方: 99.9%
同じモデル、同じテスト。測るときの周辺の道具立てが違うだけで、37ポイント動いています。
例えるなら、「うちの車、燃費リッター40キロです」という話に、「ただし平坦な直線を一定速度で走ったとき」と小さく書いてあるようなものです。嘘ではない。でも、あなたが毎日走る道での数字ではない。
『いや、そんな細かい注釈まで読めないよ』って思いますよね。
読まなくていいです。聞けばいいんです。
「これ、標準の条件で測った数字ですか?」
この1問だけ。提案してきた業者でも、社内の推進担当でも、AIに聞くのでも構いません。答えに詰まったら、その数字はまだ判断材料になっていない、というだけの話です。
ちなみに今回、この62.7%は隠されていたわけではありません。テストの運営元が自分から公開していました。探せば出てくる場所にあった。ただ、ニュース記事の見出しには99.9%しか載っていなかった、という話です。
チェック2:「新しい問題でも同じですか」
2つ目の数字、100%のほうです。
これはセキュリティ関連のテストでした。過去に見つかったソフトの弱点を、実際に突けるかどうかを試すもの。満点を取っています。
ただ、発表資料を読み進めると、その会社自身がこう書いていました。過去の弱点に触れた経験が結果に影響した可能性があるため、新しく作ったテストでも評価した、と。
要するに、答えを事前に知っていた可能性を、自分で疑ったわけです。ここは誠実だと思います。
で、直近3ヶ月に新しく見つかった問題だけで作り直したテストの結果が、**39.0%**でした。
100%が39%。
これも、そのモデルが弱いという話ではありません。前の世代は同じテストで11.5%だったので、3倍以上に伸びています。伸びは本物です。
ただ、「100%だから完璧」と読むのは間違い、というだけ。
これ、AIの話に限りません。
営業資料に「導入企業の満足度98%」と書いてあったら、いつのアンケートで、誰に聞いたのか。ツールの比較表で自社が全項目◎だったら、その項目を選んだのは誰か。
見るべきは、初めて見る問題での点です。過去問で満点を取った塾と、模試で点が出る塾は違います。
聞き方はこれです。
「新しいデータや、初めてのケースでも同じ結果ですか?」
チェック3:「誰が測りましたか」
3つ目は、地味ですが一番効きます。
今回の発表には、数学の難問を解くテストの点数も載っていました。97.6%。ほぼ満点です。
このテストを運営している団体(Epoch AI)は、自分たちのサイトにこう書いていました。
「OpenAIから資金提供を受けており、一部の問題への独占的なアクセスを許している」
自分から開示しているので、隠しているわけではありません。ただ、点数を見る側としては、知っておく必要がある情報です。
『じゃあ、その数字は信用できないってこと?』と思いますよね。
そこまでは言いません。「割り引いて見る」でいいです。
判断が変わるのは、比べる相手がいるときです。
今回、いろんな団体が測った数字の中で、測る側と測られる側が完全に別だったものが1つありました。Artificial Analysisという第三者機関が独自に測った総合点です。
結果はこうでした。
- 新しいモデル: 61.2点
- 前の世代: 60.9点
0.3点差。 ほぼ横ばいです。
料金は2.5倍。総合点は0.3点上。しかも他社のモデルのほうが数点高いという結果まで、発表した会社が自分のページに載せていました。
99.9%と100%の隣に、この数字も並んでいた。ただ、見出しにはならなかった。
聞き方はこれです。
「この数字、誰が測りましたか? 測った人と作った人は別ですか?」
3つ通すと、答えはこうなりました
私が今回のリサーチでたどり着いた結論は、こうです。
画面を操作させる仕事と、長い資料を丸ごと読ませる仕事をさせているなら、乗り換えを検討する価値があります。それ以外なら、今は動かなくていい。
理由は3つ通した結果です。飛躍して見えた数字は条件付きだった。満点は新しい問題では39%だった。第三者が測った総合点は横ばいで、料金は2.5倍だった。
一方で、パソコンの画面を見ながら操作する能力と、本1冊どころではない長さの文章を一度に扱う能力は、明確に伸びていました。だから、そこを使う仕事なら別の話になる。
これ、3行で社内に通せる形になっていませんか。
「数字は条件付きでした。総合点は前の世代と横ばいで、料金は2.5倍です。ただ、うちの◯◯の作業だけは効きそうなので、そこだけ試させてください」
「後で調べよう」から、ここまで来られれば、その日のうちに片が付きます。
AIに3点チェックさせるプロンプト
とはいえ、毎回発表ページを英語で読むのは現実的じゃないです。
なので、AIに代わりに確かめてもらう枠を作りました。発表ページのURLか、記事の本文を貼って、そのまま使ってください。
次の発表内容を読んで、3点だけ確認してください。
【貼り付け】(発表ページのURLまたは記事本文)
確認してほしいこと:1. 目立つ数字は、標準的な条件で測ったものですか。 特別な設定や独自の道具立てを使っていませんか。 注釈があれば、その内容をそのまま引用してください。
2. その数字は、新しいデータや初めてのケースでも同じですか。 過去のデータだけで測っていませんか。
3. その数字は誰が測りましたか。 測った団体と、発表した会社の関係を書いてください。 資金提供やデータ提供の関係があれば明記してください。
最後に、私の会社(業種・やりたいこと)にとって「今すぐ検討する理由があるか / 今は不要か」を1行で。
分からない点は想像で埋めず、【要確認】と書いてください。最後の一行は、毎回入れてください。AIは空欄をそれっぽい言葉で埋めてきます。埋めさせない。分からないところは「要確認」で返してもらう。
このプロンプト、AIの発表以外にも使えます。業者から届いた比較資料、ツールの提案書、広告のレポート。数字が並んでいるものなら、だいたい同じ3点が効きます。
なぜ、こんな話をするのか
正直に言うと、私も最初は99.9%で驚いた側です。
『これは記事にしないと』と思って、発表ページを開いて、数字を並べて、途中まで書きました。
で、念のためテストの運営元のページを見に行ったら、62.7%と書いてあった。
ああああ、、、ってなりました。あと1時間で、条件を書かないまま「99.9%です!」と発信するところだった。命は3センチくらい削れました。
この3つのチェックは、AIを疑うためのものじゃないです。
自分で「今は変えない」と決めきるためのものです。
新しいものが出るたびに検討するのは、真面目な人ほどやってしまいます。「乗り遅れたらどうしよう」が消えないから。
でも、乗り遅れて困るのは、その道具を使い倒している会社です。まだ毎月10時間の転記が残っている会社にとって、優先順位はそこじゃない。
今使っているAIで、目の前の1つを消すほうが先です。
そもそも最初の1本をまだ決めていない、という段階であれば、会社のAI、結局どれ? 中小企業が最初の1つを選ぶための判断軸のほうが先に読む価値があります。
おわりに:判断できる材料を、3つだけ持っておく
新しいAIのニュースは、来月も再来月も出ます。これは止まりません。
止められるのは、そのたびに検討で時間を溶かすほうです。
- 同じ条件で測った数字ですか
- 新しい問題でも同じですか
- 誰が測りましたか
この3つを持っているだけで、「後で調べよう」がその場の結論に変わります。
全部やらなくていいです。次に「すごい数字」を見たときに、1つ目だけ聞いてみてください。
「これ、標準の条件で測った数字ですか?」
だいたい、これで半分は片が付きます。
「うちの業務だと、そもそもどこにAIを効かせるのが先か分からない」という場合は、相談に乗ります。30分あれば、今どの作業が毎月残っているのかを洗い出して、乗り換えより先に手をつける場所までお伝えできます。
この記事のまとめ
- 発表の数字は条件付きのことがある。99.9%の隣に、標準の条件で測った62.7%が載っていた
- 満点は「過去の問題」での話のことがある。新しい問題に変えたら100%が39%になった。誰が測ったかも見る(測る側が資金提供を受けている場合がある)
- 3つ通すと「うちは今動かなくていい」まで即答できる。まずは「標準の条件で測った数字ですか」の1問から
宮内章宏(みやうち あきひろ) 株式会社SmartFlow 代表取締役。AI活用・業務効率化コンサルタント。 元警察官。Google WorkspaceとAIを使った仕組み化で、中小企業の業務改善を支援しています。セミナー登壇130回以上、のべ8,000名以上の方にお伝えしてきました。
宮内章宏
株式会社SmartFlow 代表取締役
警察官として7年間勤務した後、IT教育、マーケティング、業務効率化支援の現場を経験してSmartFlowを立ち上げました。